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2011年12月 Archive

第48回日本小児アレルギー学会より(その6)


前回のその5に引き続きまして、第2日目のシンポジウム9では3番目の講演として、日本医科大学の耳鼻科の先生が「アレルギー性鼻炎に対する免疫療法」という演題で講演されました。


耳鼻科では、アレルギー性鼻炎に対する最近の新しい治療法として、一つ目には皮下注射(注射の一種で、皮膚の比較的浅いところに行う注射、予防接種もこの皮下注射が多いです)によるアレルゲン免疫療法(アレルギーのもととなる物質を注射する治療法)が行われつつあるとのことでした。そしてこの治療法は成人よりも小児の方が有効性が高いとのことです。


二つ目の有効な最近の治療法としては、同じくアレルギーのもととなる物質を、これは皮下注射ではなく口の中の舌の裏側(舌下といいます)に直接垂らして、免疫力を高めアレルギー性鼻炎を治療しようという方法(舌下免疫療法)です。時に気管支喘息などが起こることがありますが、重症な副作用は稀とのことでした。

しかしこれらの治療法を行える医療機関は少なく、今現在どこでも出来るというわけではなく、今後の治療法といえそうです。


4番目の演題として、埼玉医科大学の皮膚科の先生が、「アトピー性皮膚炎の病態とスキンケア」という演題で講演されました。

アトピー性皮膚炎は、痒みを生じながら慢性に続く皮膚の病気で薬としての皮膚の炎症を抑える塗り薬と、皮膚のバリア機能の改善を目的としたスキンケアが重要とのお話です。赤ちゃんの頃から徐々に皮膚の水分を保つ能力は低下してゆき、アトピー性皮膚炎になると一層この能力が落ちるそうです。そのため保湿を中心としたスキンケアは、アトピー性皮膚炎の発症の予防につながることを力説されていました。


そして、保湿によりこの皮膚のバリア機能を良い状態に保つことで、皮膚から入る卵や牛乳、ダニなどのアレルギーの物質を少なくし、その後のアトピーを防ぎやすくするそうです。このことから、新生児期の赤ちゃんの時期よりスキンケアをすることが重要で、例えば、入浴直後にローションタイプの保湿剤を塗り、就眠前にクリームタイプの保湿剤を使用したり、外出時にはワセリンなどで肌を保護するなどの、保湿剤の使い分けの話もされていました。


第48回日本小児アレルギー学会より(その5)

前回と同じくシンポジウム9より、2番目の演題は、札幌医科大学内科の喘息の専門の先生が、「気管支喘息における末梢気道病変の病態と治療」と題した、成人における喘息についての講演でした。ただし成人の喘息のお話ですが、その成人喘息の原因はほとんどが小児喘息です。ですから小児喘息の治りが悪く、成人喘息に移行するお話とも言えます。


「末梢気道」とは肺の隅々にわたる細かい空気の通り道のことで、呼吸によって酸素を取り込んだりするのはこの部分がメインになってきます

そのため、この部分が喘息などで障害を受けると、呼吸が苦しくなるわけです。しかもこれよりノドに近いもっと太い部分が正常でも、この部分に異常がある場合には、なんと通常の聴診や診察では分からないことが多いそうです。この部分の異常を見分けるためには、精密な呼吸機能検査や息を吐き出した時の胸のCT検査などが必要で、その診断がなかなか難しいとの事でした。

そのため、一見して治ったかに見える喘息であっても(通常はこのパターンの方が多いのですが)、鼻風邪や鼻アレルギー、軽い咳だけの風邪などでも、それまで全然大丈夫で、本人自身も喘息など忘れてしまっているような状態でも喘息の症状が再発しやすいのだそうです。また、風邪もひいてない健康な状態でも、激しい運動などをすると息切れがするのもこの状態(末梢気道が正常ではなく、やや狭くなっていたり、一部潰れて機能していない状態)が考えられるとのことでした。


これらのことから言えるのは、小児の時に治ってしまった喘息でも、この末梢気道に異常が残っているような状態では、いわゆる喘息発作の火種が残っているような状態ですので、思春期や成人になってまた喘息が再発しやすいとのことでした。

このようなことから、成人の喘息のほとんどは、末梢気道が治っていない、一見治ってしまったかに見える小児喘息からの持ち上がりが考えられます。そのため、成人も含めた喘息治療は、いかに小児の時期の治療により、このような末梢の気道まで正常化させることが出来るかどうかと言えそうです。


重症の小児喘息の人では、7歳の頃までに治りが悪ければ、将来成人になった時の肺の閉塞性病変(喘息以外でも呼吸が苦しくなる病気があり、その一種です)になり易いとのことでした。7歳以降まで重症の喘息の状態が残るようであれば、そのうち大きくなれば治るなどとは言えず、その後の小学校から中学・高校ひいては成人に至るまでの呼吸機能の改善が悪いという結果だそうです。

そして、これらの問題を改善するためには、末梢の気道に合うような吸入ステロイド剤の選択・治療適応が必要であると述べていました。

第48回日本小児アレルギー学会より(その4)

 日本小児アレルギー学会第2日目の午後は、シンポジウム9「小児アレルギー医に必要な境界領域の知識 診療科を超えて小児アレルギー疾患を考えるー治療のステップアップを目指してー」を聴いて来ました。


1番目の演題は、国立相模原病院の先生による、「成人における食物アレルギーの実態」という話でした。

20歳以上の方の即時型(食べてから短い間に症状が出てくる)食物アレルギーの原因物質は、甲殻類(エビやカニなど)が18%、小麦が15%、果物類が13%、魚類が11%であり、鶏卵や牛乳が多い小児とは原因となる食物がかなり違うとのことでした。

特に、成人では食べるもの以外による(例えば花粉など)腸管外感作ルートでの食物アレルギー(pollen-food-allergy-syndrome)が代表的なもので、花粉症の発症年齢が低年齢化しているため、小児科でも今後気をつけなければならないということです。状況によっては、食べたことがない食物でもアレルギーが起こる可能性があり、例えばリンゴの口腔アレルギーの人が、初めて食べたびわや豆乳でもアレルギーが起こり得ることに注意する必要があるとのことでした。

また、女性では化粧品の中に入っている食物からの蛋白が、顔に化粧品を使用することによって顔からの皮膚経由の感作で食物アレルギーが起こることも多く、最近話題になりました「茶のしずく」による小麦の食物アレルギーが多発していると問題視していました。

このような病態は、成人において特徴的ですが、小児に生じても全く不思議ではなく、稀な食物アレルギーを引き起こす場合は、このような原因も考えなければならないようです。


そのほか、アニサキスアレルギー、納豆アレルギーなどの話題も出てきて、小児とは違う成人での食物アレルギーの特徴が勉強になったシンポジウムでした。

 他には、このシンポジウムでは、小児から成人の気管支喘息の話題や、アトピー性皮膚炎などの話題もありましたので、次回に触れたいと思います。

第48回日本小児アレルギー学会より(その3)


日本小児アレルギー学会第2日目の教育セミナー5では、「小児アトピー性皮膚炎に対するProactive Therapy の有用性―TARCを指標に加えた治療戦略―」と題して、東京の国立成育医療研究センターの先生の講演を聞いてきました。


小児のアトピー性皮膚炎は、その重症度の幅が広く、軽い人はスキンケアでコントロール出来るものの、重い人は成長や発達に障害を残すこともあり、その治療にはかなりしっかりと向き合わなければならないと話され、特に乳幼児で重症の方は、保護者の方が塗り薬のステロイド剤の使用をためらっているか、または使用していても適切な使用方法を知らない方が多いとのことでした。


そのため、成育医療センターではアトピー性皮膚炎の治療を行う上で、お子さんや保護者の方にステロイド剤を安心して使用できるようにまず始めに時間をかけて説明し、アトピー性皮膚炎に対する認識(原因や悪化因子など)をしっかり持ってもらい、さらに塗り薬のステロイド剤や皮膚の保湿を含めどのような治療法がそれぞれのアトピー性皮膚炎のお子さんに適切なのかという教育を十分に行います

そしてこのような説明に本人や保護者の方が理解を得た上で塗り薬のステロイド剤の使用を開始し、良くなるに従い順次保湿剤に置き換え、その後は無症状の状態を長期に維持するために、Proactive Therapy という、毎日ではなく、数日間に一回程度の頻度で時々塗り薬のステロイド剤を使用して、皮膚を良い状態に持続させる治療法を推奨していました。

第48回日本小児アレルギー学会より(その2)

 日本小児アレルギー学会の2日目の教育講演8では、

食物アレルギー:診断と治療ガイドラインと題して、福岡国立病院の先生が講演をされました。


食物アレルギーは近年増加していることアメリカではガイドラインの作成と医師や医療従事者のみならず保健指導関係者も食物アレルギーの標準的な評価や指導が行えることを説明され、我が国の現状として


1)食物アレルギーの確実な診断法は経口負荷試験という検査で診断することで、ガイドラインが作成され、全国でこの検査が行える医療機関が増えていること。

2)食物アナフィラキシー(食物アレルギーの重い症状)の対応は、予防と発症時の治療が基本で、食物の誤食(誤って食べてしまうこと)の予防、適切な症状の治療(携帯できてどこでも使えるエピペンという治療薬がありますが、この使用のタイミング)など・・早ければ早いほど効果があること

3)最近の治療としてトピックスなのは、経口減感作療法(経口免疫療法)といわれるもので、いわゆるアレルギーの食品をたくさん食べさせて治すという、今までの食べさせない治療法とは違う画期的なものです。ただし、現時点ではいくつかの問題点があり、どの患者さんに、どの食品を、どのくらいの量で始め、どのくらいまで増量し、治療後の食事はどうするのか、などの点でまだ一般的な治療にはなっていませんが、これからの治療として期待されるものです。

4)食物アレルギーの発症予防と離乳期のアレルギーの原因になる食物の開始時期をどうするかという点では、妊娠時期や出産後の授乳期のお母さんの食事制限は行わないのが普通で、さらにお子さん自身は早めに離乳食を開始するほうが湿疹の頻度が少なくなり、皮膚から食物のアレルギーの物質が入る可能性から、顔のスキンケアの重要性が話されていました。

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